夏物語

夏は坊主にとっては受難の季節

汗だくだく
着物は重ね着
儀式中
汗を拭くことも出来ない
ぽたぽた落ちる汗で
衣がシミにならないか
気になる

今はクーラ行きわたり
だいぶん楽にはなったけど
送風の風向一つ違えば
ローソクの火が消える

一昔前のお話

まだクーラーなんて贅沢品
扇風機が家に二三台在れば良い頃のお話

子供の頃は夏は大好き

嫌いになったのは坊主になってから
夏の研修
一日で五キロやせた
サウナの如く汗が
正装の衣の上に落ちる
お勤め中
汗を拭くことは勿論
微動だに許されぬ

終わって衣を脱ぎ捨て
水道の蛇口に
群がる
生き返った
地獄から

それから夏は嫌いになった

昔 夏のお詣りは
一日に何度となく着物を着替えた

家にクーラは無く
扇風機も数少ない
車にもまだクーラーは無かった

窓を開けて風を入れるが
強ければローソクの火が消える
風前の灯火

窓を閉めれば蒸し風呂
少ない扇風機は
後ろから風を送る
後ろからの風はこれも
ローソクの火が消える為
坊主には届かない

小さな卓上扇風機を買って
持ち歩こうかと真剣に考えた

扇風機に余裕のあるときは
斜め前ら風をもらう

微調整してちょうど良いようにと
一人で風をもらうのは悪いので
首振りにするが
途中で誰かが気を利かし
少し角度を変える

また火が消える
風が来なくなる

仏前のローソクの火が
これほど熱いのかと
感じたのも夏だった





「命ください」

「ねえ、お父さん、ターちゃんこの頃元気がないから、病院で見てもらったら、心臓が悪いんだって、このままだと半年持つかどうかっていわれたんよ」
「外国では移植もあるというけど、費用が莫大だって」
「国内では無いのか」
「今まで事例が無いんだって」
「外国で移植ってどれぐらいかかるのだ」
「テレビなんかで言ってるのは、億単位だよね」
「お金があれば、命も買えるのか、うちではとても無理だな」
「こんな事なら、弟のミーちゃんをもらってくるのだったね」
「あのとき、ターちゃんとミーちゃんとちらをもらうか迷ったのよ、私の顔を見てターちゃんが泣いたのよね。」
「可愛いなと思って、ターちゃんをもらったんだけどね」
「ターちゃんが家に来てから、お母さん明るくなったよ。一生懸命にお乳作って世話をして。笑い声が絶えなかったよ、しんどいことでも、楽しそうにしていたよ。」
「うちの子になったのだから最後までちゃんとしなあかんでよ」
「それは分かってるんだけど、ついつい愚痴も出てしまうわ」


「ねえお父さん聞いた、ミーちゃん交通事故に遭ったんだって、意識は無いんだって、心臓だけが動いてらしいよ」
「事故に遭ったとき、もってあと数日って言われたらしいの」
「向こうのお母さん泣きはらしてね、この子をなんとか助けて、お医者さんにお願いしたんだって」
「機械を付け心臓は動かしてるのだけど、意識はどうしてももどってこなだって、脳死っていうのあれらしいの」
「脳死って死んでるのだろう」
「そうなのよ、でも生きているのよ」
「お金持ちの家は命も長く出来るのだな」
「でも、死んでるから、保険も利かないし、ものすごくかかるらいしの、だからそんなに長くは出来ないでしょう、」
「だからさ、元のように元気にならないのだから、ミーちゃん心臓もらえないかな、話してもらえない、ねお父さん」
「そんなこと言えるわけないだろう、」
「だって、ミーちゃんはもう死んでるのよ、でもターちゃんはまだ生きられるのよ」
「死んでるのだから、心臓ぐらいもらっても良いじゃない、それでターちゃんの命が助かるのだから」
「このままではみんな死んじゃうのよ、」
「そんなこと考えたらあかん」
「一生懸命に看病してる人の気持ちを考えてごらん、お母さんもターちゃんの世話をしてわかるだろう、命をそんなに軽く考えて良いのか、よーく考えなさい」
「でもーーーーーー」


「ターちゃん死んじゃった。ミーちゃんはこの前に死んだんだって」
「そうか、みんなそれぞれの命を全うしたのだな」
「でもね、なにか心に引っかかってね、余計なこと考えてしまうわ、もっと生きれたのではないかとね」
「お母さんも、最後までよく世話をしたね、」
「今回の事で色々考えさされたね、短かったけど家族だったもんね、歓びや、悲しみや、しつけの難しさ、まして病気になって、命をね、今まで考えたこともなかった。」
「毎日が当たり前、明日あるのが当たり前の命と思ってた。その命もお金で、買えたり、長く出来るように思えるものだね。命が助かるためなら、助からない命を平気で物扱いしまうものね。」
「これも命への欲なんだろうけど、でも誰も欲と言わないよね、ほめてくれてるよね、」
「それで、助かった命があるからね、そうしないのは薄情だって」
「じゃ、うちは薄情?」
「そうじゃないよ、あれだけ一生懸命に看病したじゃないか」
「お母さんの中でターちゃんは生きているだろう。移植できる縁がなかっただけだよ」
「そう思って良いのねお父さん」
「お葬式ちゃんとして送ってあげようね」
「ターちゃん有り難うてね」
「こんなに色々なこと教えてもらったものね」

「今度はもっと元気な子猫をもらって来てね、お父さん」